麻生太郎大臣の首相時代の資料を「残さないよう努めている」発言全文書き起こし

1. 前書き

 麻生太郎大臣が首相時代の資料を残さないようにしているという記事が出た。  この件、はてなブックマークでは全文を見ないと判断できないという意見もあるようだ。該当部分は西岡委員の質疑が始まって18分頃からのそこまで長くないやり取りなので当該の衆議院インターネット中継を見れば前後関係は理解できるのだが、それもなかなかそんな時間がないという方も多いかもしれないし、また文章として読まないと意味を把握しづらいという方もいるだろう。

 そこで、このままでは不毛なので書き起こしをすることにした。しかし、やはりできれば実際に聞いた方が場の空気やニュアンスを掴みやすいので興味のある方は聞いてみていただきたい。

 

2. 断り書き  

 

 (1) 基本的には実際の国会論議を再現するよう努めたが例外的に一部については発言を次のように修正した。

・あまり意味の無い単語やどもりについては一部削除した。

 例:西岡委員の「今」や安倍首相の「ですね」の一部等。

・同じ表現の繰り返しについても統合している。

 例:「または手紙、まあ手紙、いただいた手紙ですね」→「またはいただいた手紙」等。

野田聖子予算委員長の発言についても基本的にカットした。

 (2) 答弁途中での割り込みや笑い声等で発言に関する空気や文脈に対する理解に必要なものは()内に記述した。委員長の発言についても同様である。

 (3) 句読点は意味が切れていると感じたところに勝手につけた。

 (4) 特に書き起こし文中に書くまでもないと感じたものは注釈として入れた。

 (5) 冒頭記事の元になったと思われる部分は太字にした。

 もし何かご指摘があれば書いていただけると幸いです。

 

3. 書き起こし

 

2019年2月13日 衆議院予算委員会

 

西岡秀子委員(以下西岡):(前略)それでは次の質問に行きたいというふうに思います。首相の公的な記録管理のあり方ということでお尋ねをさせていただきます。先般、福田元総理が提言をされました*1けれども、それは安倍総理お読みになりましたでしょうか。

 

安倍晋三首相(以下安倍):福田元総理もルールを作り歴史的文書として保存することを提言しておられるわけでありまして、そうした指摘も受け止めながら、政府としては内閣総理大臣が各行政機関から説明や報告を受けた際に用いられた資料のうち公文書または行政文書に該当するものについては、公文書管理法等の規定に基づき官邸で説明を行った各行政機関の責任において、国民への説明責任を全うすることができるよう適切に適性に管理するべきものと認識をしているところでございます。

 

西岡:総理は2回総理大臣になられているわけでございますけれども、総理の文書っていうのは大変私[わたくし]的な文書か公文書かというのが区別が難しいんだと思いますけれど、総理はどのようにご自身が持ってらっしゃる資料を今保存されているんでしょうか。

 

安倍:公文書に該当しない、例えば私自身の日記、またはいただいた手紙ですね。この中でもいただいた方おられます。私結構取ってるんですが、ほとんどの方からはいただいておりませんが(笑い声が起こる*2)、出していただいた方もおられます。そういう手紙。あるいは外国の首脳から個人的に、あるいは元首脳、あるいはその家族からいただく手書きの手紙というものもあります。そういうものは取ってあるわけでありますが、その中にも歴史的に重要なものは、私のものについて存在しうるかどうかというのはこれは他の方が判断するものになるかもしれませんが、記録については国立公文書館において公文書を補完・補強するものとして、本人の了解、私の場合であれば私のですね、を得た上で、退任後に資料を積極的に収集し保存するとともに、歴代総理大臣経験者を対象として口述記録、いわゆるオーラルヒストリーを収集するなどの取り組みを進めていることとしている*3と承知しております。なお、一連の公文書を巡る問題も踏まえて昨年7月に公文書管理の実務を根底から立て直すべく公文書管理の適正化に向けた総合的な施策を決定し*4全て着実に実行に移しているところであり、引き続き適正な公文書管理の徹底に万全を期して参りたいとこう思っております。ちなみに、私自身は今現在は日記というものはつけておりませんどこかの段階でまたつけるかもしれませんが、今の段階ではつけていないということでございます。

 

西岡:総理が例えば会議とかでメモをされたものですとか、後世歴史的に大変価値のあるものになる可能性もあると思いますので。福田元総理は全て持ち帰ったものは取っていらっしゃるということのようでございますので(小さくふーんとの声)、総理も2度総理大臣を務めておられますので、私[し]文書というあれではなくてやはり後世に歴史を伝えるという意味でも是非残していただきたいというふうに思います。ただルールを本当はやはり作るべきなんではないかと私自身は思いますけれども、麻生元総理お尋ねしてもよろしいでしょうか。(小さなざわめき*5)(委員長:財務大臣。)あっ、総理の時の様々なあの…(委員長:メモとかそういうの…。)、メモとか、総理大臣当時の資料はどのように保管されておりますでしょうか

 

麻生太郎大臣:基本は今総理が言われたとおりなんですけども、私の場合はほとんどそういったものは残さないように努めてますんで(少し笑い声が起こる)ほとんど残したことはありませんし。日記というのをよく書かれていらっしゃる方がいらっしゃるんですけども、偉い方が書かれた日記なんてのは大体後の人に読んでもらいたいと思って本当のことが書いてあるかどうか分からない(大きめの笑い声が起こる)(西岡?:ふーーん)。私は基本的にそう思っておりますから書かないことにしていますし、自分でも書いたって人はそう読むだろうと思いますのでそういったことはしないようにしています。(ざわめき*6

 

西岡:実はどうしてこういうお話をお尋ねさせていただいたかといいますと、福田元総理が公文書管理法を作られた時というのは、社会保険庁消えた年金問題、厚生労働省C型肝炎関連資料の放置*7海上自衛隊補給艦とわだについての日誌を間違って破棄してしまった*8など公文書管理にまつわる不祥事が多発したということを受けて、福田当時の総理が公文書管理のあり方を見直すチームを作られましてその途中で退任をされましたので、その最終報告書をお引き受けになったのが麻生総理*9でございまして、麻生総理の時に2009年に公文書管理法が成立をいたしております。ちょうど10年目になります。公文書管理法と車の両輪と言われるのは情報公開法でございますけれども、情報公開法はちょうど今年20年ということでございますので。先般、昨年から大変公文書にまつわる様々な問題が発生をいたしましたので、我が党も公文書管理法については2本提出をいたしております*10ので、法律できちんと公文書管理についてのルールをもっと、第三者的に監視をするルールも含めまして、是非公文書管理を改正していただいて法律できちんと規定をするべきではないかというふうに思います。総理にご所見を伺いいたします。

 

安倍:公文書については先程答弁させていただいたとおりでございますし、御党が御党として出されるんですか?(西岡:昨年出しております。)あ、失礼いたしました。御党の出された法案についてはこの国会でご議論いただければとこう思うところでございます。先程申し上げましたこの2点でございまして。公文書につきましては、官邸において申し上げれば、内閣総理大臣が各行政機関から説明や報告を受けた際に用いられた資料のうち公文書に該当するものについては、公文書管理法等の規定に基づき官邸で説明を行った各行政機関の責任において、国民への説明責任を全うすることができるように適性に管理するべきものとこう考えているところでございます。またその後[あと]の委員のご指摘になった公文書では無い日記等々ですね、そういうものについては様々なものが存在するわけでございますから、先程申し上げましたように公文書を補完・補強するものとして本人の了解を得た上でという…。メモ等我々も書く場合があります。様々なスピーチを書いていく上において、基本的な考え方を実際にスピーチライター等に渡す場合がありますから、そういうものは私の手書きのものもありますし、それを添削的にする時のいただいた提案にどういう問題があるか書き込んだ原稿等も私は一部取ってはあります。また人事を行う際にもこう色々と、例えばこれは私というよりもあの、えー…(大きめの笑い声が起こる)そういうことを考えそれにおいて推敲する方もおられるんだろうと、そういうメモをしつつ共有する、いやそれはそれでそれなりの資料的な価値というものはあるのかなあとこう思うところでもあります。

 

西岡:やはり昨年からの公文書改竄も含めまして、公文書管理法を改正して第三者的な監視がきちんと行われる仕組みにすることが今の行政、また立法府も健全な形になるのではないかと思います。そのことを申し上げて質問を終わります。(拍手)

*1:

恐らく「公文書クライシス:首相公文書『保存ルールを』 福田氏、退任後も自身で管理 記録補佐官の創設、提言」(毎日新聞2019年1月20日朝刊p.31)のこと。

ネット記事としては首相公文書「保存ルールを」 福田氏、退任後も自身で管理 - 毎日新聞

*2:

この後も含めて実際誰が笑っているかと言えば、例えば答弁者の後方の人達は大抵笑顔なのでよく映像に映る。茂木大臣?は基本笑顔だが、こういう時によく笑っている。委員長の笑い声が入る時も結構多い。

*3:

この経緯については長谷川貴志「国立公文書館におけるオーラル・ヒストリー事業の実施に向けた一考」北の丸pdfあたりが参考になるかもしれない。

*4:

恐らく公文書管理の適正の確保のための取組について(平成30年7月20日行政文書の管理の在り方等に関する閣僚会議決定)pdfのこと。

*5:

恐らく質問の意図が分からなかったため。「何が聞きたい?」という声が聞こえる(麻生大臣の声?)

*6:

よく聞くと「駄目だ」という発言が聞こえる。何に対してかは断言できない。

*7:

C型肝炎感染の疑いがある患者418人のリストが2007年10月に厚生労働省地下倉庫から発見された事件。厚労省は担当者交代の際に引き継ぎが不十分であったと説明した。しかし、リストには一部イニシャルや実名が記載されておりこの情報を用いて告知すれば肝炎被害を抑えられたのではないかという疑念を生み、またそうしたリストがあるのにも関わらず否定していたため問題になった(「薬害肝炎、攻防3カ月 リスト発見で世論に火、政治闘争に」朝日新聞2008年1月16日p.26。「公文書保存、やっと本腰 管理強化へ議員立法の動き」朝日新聞2008年2月5日朝刊p.5。)

*8:

2007年10月に民主党外務防衛部門会議で発覚した、本来4年の保存期間内だった航泊日誌を誤破棄した事件(「インド洋補給艦の航泊日誌を一部破棄 保存期間中に/防衛省発表」読売新聞2007年10月16日夕刊p.2)。その後、計105件が誤破棄またはその可能性があると判明し問題になった(「航海日誌の誤破棄105件 防衛省、ずさんな文書管理」読売新聞朝刊2007年12月27日朝刊p.4)。

*9:

最終報告 「時を貫く記録としての公文書管理の在り方」~今、国家事業として取り組む~ [PDF]

*10:

恐らく2017年に旧6会派で提出した改正案と2018年に5会派で提出した改正案(通称公文書改ざん防止法案)のこと。もしくは2017年の改正案ではなく4会派で提出した公文書管理適正化推進法案のことかもしれない。

参考:

「公文書管理法改正案」「会計検査院法・予算執行職員等責任法改正案」を衆院に提出 - 国民民主党

公文書管理法改正案 - 国民民主党

「公文書等の管理の適正化の推進に関する法律案」を衆院に提出 - 国民民主党

法律案等審議経過:

法律案等審査経過概要 第197回国会 公文書等の管理に関する法律の一部を改正する法律案(篠原豪君外16名提出、第195回国会衆法第4号)

法律案等審査経過概要 第197回国会 公文書等の管理に関する法律の一部を改正する法律案(後藤祐一君外13名提出、第196回国会衆法第21号)

法律案等審査経過概要 第197回国会 会計検査院法及び予算執行職員等の責任に関する法律の一部を改正する法律案(篠原豪君外13名提出、第196回国会衆法第22号)