山東議員による多子出産者表彰発言に関する雑感

自民党山東昭子・元参院副議長が21日の党役員連絡会で、「子供を4人以上産んだ女性を厚生労働省で表彰することを検討してはどうか」と発言した。終了後、山東氏は朝日新聞の取材に「女性活躍社会で仕事をしている人が評価されるようになって、逆に主婦が評価されていないという声もあるので、どうだろうかと発言した」と述べた。申請制にして希望者を表彰する案という。

自民の山東氏「4人以上産んだ女性、厚労省で表彰を」:朝日新聞デジタル

  まとめると、

  1. 「”仕事をしている女性”が評価されるようになったから”主婦”が評価されなくなったのではないか」という声がある
  2.  だから”子供を4人以上産んだ女性”を厚生労働省で表彰しよう!

ということらしい。

 

本当に色々と思うところはあるのだけど、1点だけ言わせていただきたい。

1(目的)→2(手段)って必ずしも論理的に繋がらなくないですか

 

普通、「”主婦”を評価したい」という話から”主婦”に関して真っ先に子供の数が評価対象に上がり、しかも「子供を4人以上産んだ」ことに対して表彰するって流れになるのだろうか。

 

そもそも前提として”仕事をしている女性”と”主婦”*1を対比的に置いているわけだ。しかしながら”仕事をしている女性”でも子供を4人以上産んだら表彰対象になるのではないか。この時点で「”主婦”を評価したい」という目的から外れているように見える。

よもや、当然仕事と出産は全く二者択一を取るものなのだという価値観から前提を立てているからこのような捩れが生まれるのではあるまいかという懸念がよぎる。ただ一方で、キャリアと子供で二者択一を迫られるという現実の反映だとも言えなくもない。それにしたって、その択一を表彰制度において所与のものとしてよいのだろうかとも思う。むしろその択一こそが問題の根本であって政治家が真っ先に是正すべきところなのではないかという疑問が浮かぶ*2

  

元記事では少子化の少の字も出ていないのにブコメ*3少子化対策としての議論だろうと受け入れられているのは、やはり記事内での山東議員の論理に飛躍があるために自然と補完してしまったからなのではないかとさえ思ってしまう。*4。もちろん、「人づくり革命」の文脈から連絡会でも少子化対策として議論になったのだろうという推測自体は自然なものではある。だが記事の限りでは自明だと断言もできまい。

 

とはいえ単に記事に詳細が記載されていないからおかしく見えている*5可能性はあるのだけれども…。実際の連絡会における具体的な文脈を知りたいところです。

 

 

*1:”主婦”の定義も微妙なところである。兼業主婦は”仕事をしている女性”に入りそうなものだが。それとも”仕事をしている女性”とはいわゆるバリバリのキャリアウーマンを想定しているのだろうか。

*2:

実際は”仕事をしている女性”と”主婦”という単純な対比でなく、

キャリアを諦め退職→出産→再就職で共働き

というパターンも結構ありそうだけどどう位置付けられての話だったんだろう。

*3:

はてなブックマーク - 自民の山東氏「4人以上産んだ女性、厚労省で表彰を」:朝日新聞デジタル

*4:まあ斟酌すれば対比されているのは女性の属性ではなく”仕事”と”出産・育児”なのだと言えなくもない。要するに「現状は”仕事”ばかり評価されている状況にあって”出産・育児”は軽んじられている」と言いたいわけだ。正直この認識には違和感があるが、それなら効力はさておき目的手段間にそこまでの齟齬はないとも言えるかもしれない。しかし出産はともかく”仕事”と”育児”なら男性でも同じように対比できそうなものだが。

本論と外れるが、個人的には、この議論が古色蒼然とした価値観に裏打ちされていた可能性を最も恐れている。より正確に言えば、古色蒼然とした価値観によって現状認識の誤りを持った議員がいるのではないかというのを案じるものである。

*5:そもそも子供の数で表彰という方法そのものがどんな文脈でもおかしいだろうし事実上一定の家族像を表彰という形で称揚するのはおかしいだろうという意見もあるだろう。むしろその批判の方が本質的な批判かもしれない。個人的には同感だがここではさておく。