大屋先生は今回の検察庁法改正案は黒川氏の件とは別件と言うけれど

<追記 2020/5/11 21時>

 刑事法の亀井源太郎先生の一連のツイートリツイートした後の呟きなのでやはり定年延長(勤務延長)と定年引上げは違うであって、本記事で引用した大屋先生のお話はあくまで定年引上げの話をしていたということなんでしょうね。

  あれ…勤務延長の話も「横並び」の対象というか陸続きという認識なんですか…?

 定年延長(勤務延長)の規定が今国会で提出されたことも知っているのに…?えー…?ちなみに勤務延長の規定が解釈変更以降に追加されたのは政府参考人も認めています(後述)。

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法哲学者の大屋先生が今回の検察庁法改正案について解説を書いていたのだがその一節

 黒川氏の定年延長(以下勤務延長とする)が今回の検察庁法改正を根拠としたものではないという意味では無関係というのは正しい。ただ一方で黒川氏の件とは地続きの問題であるというのも確かではないだろうか。つまり、「特定の問題とは無関係」「黒川氏の定年延長は…この法案とは無関係」というのは「この法案は遡って黒川氏にも適用するものだ」に対する反論として”は”正しい。…まあさすがに大屋先生はそれくらいご存じだろう(著名な法哲学者だから)が、誤解する人も多いのではないだろうか。

 というのも、今回の改正案は明らかに黒川氏の勤務延長の時に行った国家公務員法の解釈の「変更」を下敷きにしているだろうと思われるからだ。つまり、黒川氏の勤務延長は晴れて当時の国家公務員法検察庁法の正当な解釈に基づいて行われたということになる法案であり条文であるように見受けられる。換言すればあの解釈を追認するという意味合いがあると言えるのではないか。

1. 今までの検察官の勤務延長についての解釈

検察庁

第22条

検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。

国家公務員法

第81条の2

1 職員は、法律に別段の定めのある場合を除き、定年に達したときは、定年に達した日以後における最初の三月三十一日又は第五十五条第一項に規定する任命権者若しくは法律で別に定められた任命権者があらかじめ指定する日のいずれか早い日(以下「定年退職日」という。)に退職する。

2 前項の定年は、年齢六十年とする。ただし、次の各号に掲げる職員の定年は、当該各号に定める年齢とする。
一 病院、療養所、診療所等で人事院規則で定めるものに勤務する医師及び歯科医師 年齢六十五年
二 庁舎の監視その他の庁務及びこれに準ずる業務に従事する職員で人事院規則で定めるもの 年齢六十三年
三 前二号に掲げる職員のほか、その職務と責任に特殊性があること又は欠員の補充が困難であることにより定年を年齢六十年とすることが著しく不適当と認められる官職を占める職員で人事院規則で定めるもの 六十年を超え、六十五年を超えない範囲内で人事院規則で定める年齢

3 前二項の規定は、臨時的職員その他の法律により任期を定めて任用される職員及び常時勤務を要しない官職を占める職員には適用しない。

第81条の3

1 任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。
2 任命権者は、前項の期限又はこの項の規定により延長された期限が到来する場合において、前項の事由が引き続き存すると認められる十分な理由があるときは、人事院の承認を得て、一年を超えない範囲内で期限を延長することができる。ただし、その期限は、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して三年を超えることができない。

 要点をまとめるとこうなるだろう。

検察庁
第22条
定年は、検事総長は65歳、その他の検察官は63歳

国家公務員法
第81条の2 1項

職員は、法律に別段の定めのある場合を除き、定年したら退職する
第81条の2 2項

<原則>

第81条の2 1項にある「定年」は60歳

<次の3つは例外>
(1) 人事院規則に定める医師や歯科医師 = 65歳
(2) 人事院規則に定める衛視等 = 63歳
(3) 人事院規則で定める特殊な官職 = 61~65歳

第81条の2 3項

けど第81条の2 2項は非常勤や法律で任期が定められてる人には適用しない
第81条の3 1項

条件1:定年に達した職員が81条の2第1項の規定により退職する場合

条件2:公務の運営に支障が出る十分な理由があるとき

効果:任命権者はその職員を勤務延長させられる
第81条の3 2項

条件:81条の3 1項の「公務の運営に支障が出る十分な理由」が続く場合

効果:更に勤務延長できる

 今までの解釈

(1) 検察官は検察庁法で定年が定められているので国家公務員法第81条の2 1項にある「法律に別段の定めのある場合」に当たり第81条の2 1項は適用されない。

(2) 検察官に第81条の2 1項が適用されないと第81条の2 2項に書かれている定年は適用されない。何故なら「前項(81条の2 1項)の定年」と書かれているからだ。よって、定年について検察庁法との整合性は考えなくてよい。

 実際、人事院検事総長や検察官の定年について「法律に別段の定めのある場合」なので81条の2 2項とは別だと考えていた。

(参考: 人事院サイト内資料「国家公務員の定年制度等の概要」

(3) 検察官に第81条の2 1項が適用されないと第81条の3 1項も適用されない。何故なら「前条第一項(81条の2 1項)の規定により退職すべきこととなる場合」という条件があるからだ。つまり勤務延長も適用されない。

⇒ ところが、黒川氏の時にはこの第81条の3が適用できると解釈された。何故なら検察庁法は国家公務員法に対する特別法なのだから、勤務延長について検察庁法に書いていなければ一般法である国家公務員法の規定を持ってくればいいという理屈。

 「前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合」はどうなってるのかな?この条件に当てはまるのであれば「法律に別段の定めのある場合」に当たらず、81条の2 1項は検察官にも適用され、81条の2 2項の定年についての定めだけ検察庁法の定年が上書きされるという意味に取るしかないと思うが政府見解はこのあたりちょっとよく分からない部分がある。

 

2. 改正案

 それでこれどうなったと思います?さすがに長すぎるのでリンク先を見てください。

国家公務員法等の一部を改正する法律案 新旧対照条文

 気になった点を挙げておくと次の通り。

(1) 国家公務員法おける定年・勤務延長に関しての規定は第81条の2・3から第81条の6・7にずれる

(2) 国家公務員法の「法律に別段の定めのある場合」(81条の2 1項 → 81条の6 1項)「前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合」(81条の3 1項 → 81条の7 1項)は存置される

(3) 追加された検察庁法22条2項は「検事総長次長検事又は検事長に対する国家公務員法第八十一条の七の規定の適用については」という文言から始まる

(4) 追加された検察庁法22条2項において勤務延長の際に国家公務員法では「人事院」が関わるところ「内閣」や「法務大臣」に読み替えるよう書かれている

※黒川氏の時には勤務延長に人事院の承認が必要なのかと聞かれて政府はYesと答えていた(国家公務員法をそのまま適用するならそうなる)

(5) 勤務延長の条件として「公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として内閣が定める事由」

 

 いろいろ気になるところはあるのだが、黒川氏との関連部分だけ。

 いやまあ、黒川氏の勤務延長について政府は合法だと主張しているので「法律に別段の定め」とか「前条第一項の規定により」という規定を変えないのは分かります(自衛隊は合憲だと言いつつ違憲だと言われているという理由で改憲しようとしてるけどそれは別としてね)。ただそれはつまりこの時点で黒川以降の世界線なのだな、って。とはいえこれは変更しているわけではないのでまあ良いとしよう。

 しかし、(3)は国家公務員法の勤務延長が適用されるのが当然だという前提に立っているように見える。要するに国家公務員法の勤務延長の規定を検察官に適用しないという解釈はありえんと言っているわけだ。しかも今まで国家公務員法の勤務延長が検察官に適用できないとされている根拠や根拠条文はそのままでですよ!それは感情的な解釈で「~を適用する。この場合において~」の意味に過ぎないという反論もあるでしょう。いや、それならそう書けばいいよね?結局これ通したら黒川氏の時の政府の法解釈を追認するってことになりかねないよね?違うかな。

 <追記 2020/5/11 21時>

木村政府参考人 今回の国家公務員法等の一部を改正する法律案におきます検察庁法二十二条の改正案ということでございますけれども、それに国家公務員法の勤務延長制度の適用を前提とする読みかえ規定でございますとか管理監督職勤務上限年齢による降任等に相当する独自の制度についての特例規定、こういったものが盛り込まれましたのは、本年一月の解釈変更の後ということでございます。

第201回国会 衆議院 法務委員会 第6号 令和2年3月31日 

 木村政府参考人内閣法制局の人です。とりあえず勤務延長制度の適用を前提とする規定なのは確定だろう。ちなみに小西議員のツイートが示す資料は解釈変更がきっかけで勤務延長についての規定が加わったとより明確にしているけど、この答弁でも解釈変更の後に勤務延長制度の規定が加わったという時系列なのは分かる。

 

 そういうわけで、その意味では黒川氏の件とはと「無関係」とは全く思わない。ただ大屋先生は「特定の問題」としか言ってないのでそれが黒川氏の件なのかは断定してないんだけどね。その次の黒川氏の定年延長とは無関係というのは「遡って適用しようとしている」って意見に対する反論なのでその範囲で読むべきだとも言えるので。

 ただ再度書くと誤解を生みかねない書き方なのではないかと思ったので筆を執った次第。けど、大屋先生がどの範囲で無関係と主張してるかは分からないので…。もしかしたら「この法案の条文だって黒川氏の一連の騒動とは全く無関係に作られてるよ」とおっしゃるかもしれない。そうしたら、基本的には私のような凡百の素人なんぞより大屋先生の解釈が正しい可能性の方が高いと見るべきです。何せ法の専門家ですからね。法哲学は実定法学ではないので法解釈学の専門家ではないんだけど、論文で法解釈を扱うこともあるので。まあ、憲法9条を「字義通りに読めば」の一言で済ませちゃう*1法哲学の大大大先生もいらっしゃる一方、法解釈学をテーマに1冊本を出す法哲学の大先生もいらっしゃるわけで、先生によって信用できるかどうか微妙って話もあるかもしれんけど、それは実定法学者でもたまにやらかすことはあるのでまあそんなものだよという話だからね。

*1:それは文理解釈と言う解釈手法だけど論理解釈とか目的論的解釈は何で使わないのか説明しなくていいの?この程度で文理解釈で単一の見解が出て論理解釈等はお呼びでないと認定するなら憲法やそれ以外の法律の条文でも「字義通りに読めば」ありえない解釈たくさんありません?それとも文理解釈ではなく論理解釈や目的論的解釈を用いても条文から読める範囲内ではそうとしか言えないという意味なの?

静岡の新型コロナ患者についてブコメで誤ったことを書いてしまった

 あまりに酷い間違いだったので自戒を込めて晒しておきたい。

[B! コロナウイルス] 静岡 新型ウイルス感染男性 スポーツクラブの浴室など利用 | NHKニュース

自分の間違い晒す→勘違いしてる人多くない?20・22日:男性が浴室利用、23日:政府が下船者に不要不急の外出や公共交通機関の利用の自粛を要請、28日:男性の感染発覚。何故言うことを聞いてないなんて言われてるんだ

2020/03/01 17:57

 「勘違いしてる人多くない?」以降が元の文。勘違いしているのはお前だ。これに対して他のブコメの方にご指摘を受けまして訂正しました。

静岡 新型ウイルス感染男性 スポーツクラブの浴室など利用 | NHKニュース

20・22日:男性が浴室利用、23日:公共交通機関の利用の自粛を要請、28日:男性の感染発覚 / 下船時健康カードに感染の恐れがないとする一方不要不急の外出を控えるようとも書かかれていました。確認不足で申し訳ありません

2020/03/01 14:18

 本当はタグを使うべきでないし、一度削除してから再投稿すべきか迷ったのですが…。どちらの方が正しかったのだろう。

 23日の方針転換で変わったないし追加されたのは公共交通機関の利用自粛要請の部分と健康フォローアップを毎日行うという点です。この健康フォローアップで下船時に配られた健康カードに書かれていること(下船者は感染のおそれはない、14日は自分の健康を確認して不要不急の外出を控えて、体調に異変を感じたら相談センターに相談するように…と言っても栃木の件があってからなので感染の恐れはないという話はしてないかも)を電話で再確認していたようです。正確には当初は「不要不急の外出」については書かれていなくて19日の下船者には後から電話を掛けたようですが、今回の件は20日の下船者で当該の文章は存在していました。

 今回は重ね重ね皆さんに申し訳ないです。同様に「不要不急」は専門家会議の方が盛り込んだそうなので彼らや政府に対していらぬ風評を生んでしまったと思います。お詫びのしようもありません。

麻生太郎大臣の首相時代の資料を「残さないよう努めている」発言全文書き起こし

1. 前書き

 麻生太郎大臣が首相時代の資料を残さないようにしているという記事が出た。  この件、はてなブックマークでは全文を見ないと判断できないという意見もあるようだ。該当部分は西岡委員の質疑が始まって18分頃からのそこまで長くないやり取りなので当該の衆議院インターネット中継を見れば前後関係は理解できるのだが、それもなかなかそんな時間がないという方も多いかもしれないし、また文章として読まないと意味を把握しづらいという方もいるだろう。

 そこで、このままでは不毛なので書き起こしをすることにした。しかし、やはりできれば実際に聞いた方が場の空気やニュアンスを掴みやすいので興味のある方は聞いてみていただきたい。

 

2. 断り書き  

 

 (1) 基本的には実際の国会論議を再現するよう努めたが例外的に一部については発言を次のように修正した。

・あまり意味の無い単語やどもりについては一部削除した。

 例:西岡委員の「今」や安倍首相の「ですね」の一部等。

・同じ表現の繰り返しについても統合している。

 例:「または手紙、まあ手紙、いただいた手紙ですね」→「またはいただいた手紙」等。

野田聖子予算委員長の発言についても基本的にカットした。

 (2) 答弁途中での割り込みや笑い声等で発言に関する空気や文脈に対する理解に必要なものは()内に記述した。委員長の発言についても同様である。

 (3) 句読点は意味が切れていると感じたところに勝手につけた。

 (4) 特に書き起こし文中に書くまでもないと感じたものは注釈として入れた。

 (5) 冒頭記事の元になったと思われる部分は太字にした。

 もし何かご指摘があれば書いていただけると幸いです。

 

3. 書き起こし

 

2019年2月13日 衆議院予算委員会

 

西岡秀子委員(以下西岡):(前略)それでは次の質問に行きたいというふうに思います。首相の公的な記録管理のあり方ということでお尋ねをさせていただきます。先般、福田元総理が提言をされました*1けれども、それは安倍総理お読みになりましたでしょうか。

 

安倍晋三首相(以下安倍):福田元総理もルールを作り歴史的文書として保存することを提言しておられるわけでありまして、そうした指摘も受け止めながら、政府としては内閣総理大臣が各行政機関から説明や報告を受けた際に用いられた資料のうち公文書または行政文書に該当するものについては、公文書管理法等の規定に基づき官邸で説明を行った各行政機関の責任において、国民への説明責任を全うすることができるよう適切に適性に管理するべきものと認識をしているところでございます。

 

西岡:総理は2回総理大臣になられているわけでございますけれども、総理の文書っていうのは大変私[わたくし]的な文書か公文書かというのが区別が難しいんだと思いますけれど、総理はどのようにご自身が持ってらっしゃる資料を今保存されているんでしょうか。

 

安倍:公文書に該当しない、例えば私自身の日記、またはいただいた手紙ですね。この中でもいただいた方おられます。私結構取ってるんですが、ほとんどの方からはいただいておりませんが(笑い声が起こる*2)、出していただいた方もおられます。そういう手紙。あるいは外国の首脳から個人的に、あるいは元首脳、あるいはその家族からいただく手書きの手紙というものもあります。そういうものは取ってあるわけでありますが、その中にも歴史的に重要なものは、私のものについて存在しうるかどうかというのはこれは他の方が判断するものになるかもしれませんが、記録については国立公文書館において公文書を補完・補強するものとして、本人の了解、私の場合であれば私のですね、を得た上で、退任後に資料を積極的に収集し保存するとともに、歴代総理大臣経験者を対象として口述記録、いわゆるオーラルヒストリーを収集するなどの取り組みを進めていることとしている*3と承知しております。なお、一連の公文書を巡る問題も踏まえて昨年7月に公文書管理の実務を根底から立て直すべく公文書管理の適正化に向けた総合的な施策を決定し*4全て着実に実行に移しているところであり、引き続き適正な公文書管理の徹底に万全を期して参りたいとこう思っております。ちなみに、私自身は今現在は日記というものはつけておりませんどこかの段階でまたつけるかもしれませんが、今の段階ではつけていないということでございます。

 

西岡:総理が例えば会議とかでメモをされたものですとか、後世歴史的に大変価値のあるものになる可能性もあると思いますので。福田元総理は全て持ち帰ったものは取っていらっしゃるということのようでございますので(小さくふーんとの声)、総理も2度総理大臣を務めておられますので、私[し]文書というあれではなくてやはり後世に歴史を伝えるという意味でも是非残していただきたいというふうに思います。ただルールを本当はやはり作るべきなんではないかと私自身は思いますけれども、麻生元総理お尋ねしてもよろしいでしょうか。(小さなざわめき*5)(委員長:財務大臣。)あっ、総理の時の様々なあの…(委員長:メモとかそういうの…。)、メモとか、総理大臣当時の資料はどのように保管されておりますでしょうか

 

麻生太郎大臣:基本は今総理が言われたとおりなんですけども、私の場合はほとんどそういったものは残さないように努めてますんで(少し笑い声が起こる)ほとんど残したことはありませんし。日記というのをよく書かれていらっしゃる方がいらっしゃるんですけども、偉い方が書かれた日記なんてのは大体後の人に読んでもらいたいと思って本当のことが書いてあるかどうか分からない(大きめの笑い声が起こる)(西岡?:ふーーん)。私は基本的にそう思っておりますから書かないことにしていますし、自分でも書いたって人はそう読むだろうと思いますのでそういったことはしないようにしています。(ざわめき*6

 

西岡:実はどうしてこういうお話をお尋ねさせていただいたかといいますと、福田元総理が公文書管理法を作られた時というのは、社会保険庁消えた年金問題、厚生労働省C型肝炎関連資料の放置*7海上自衛隊補給艦とわだについての日誌を間違って破棄してしまった*8など公文書管理にまつわる不祥事が多発したということを受けて、福田当時の総理が公文書管理のあり方を見直すチームを作られましてその途中で退任をされましたので、その最終報告書をお引き受けになったのが麻生総理*9でございまして、麻生総理の時に2009年に公文書管理法が成立をいたしております。ちょうど10年目になります。公文書管理法と車の両輪と言われるのは情報公開法でございますけれども、情報公開法はちょうど今年20年ということでございますので。先般、昨年から大変公文書にまつわる様々な問題が発生をいたしましたので、我が党も公文書管理法については2本提出をいたしております*10ので、法律できちんと公文書管理についてのルールをもっと、第三者的に監視をするルールも含めまして、是非公文書管理を改正していただいて法律できちんと規定をするべきではないかというふうに思います。総理にご所見を伺いいたします。

 

安倍:公文書については先程答弁させていただいたとおりでございますし、御党が御党として出されるんですか?(西岡:昨年出しております。)あ、失礼いたしました。御党の出された法案についてはこの国会でご議論いただければとこう思うところでございます。先程申し上げましたこの2点でございまして。公文書につきましては、官邸において申し上げれば、内閣総理大臣が各行政機関から説明や報告を受けた際に用いられた資料のうち公文書に該当するものについては、公文書管理法等の規定に基づき官邸で説明を行った各行政機関の責任において、国民への説明責任を全うすることができるように適性に管理するべきものとこう考えているところでございます。またその後[あと]の委員のご指摘になった公文書では無い日記等々ですね、そういうものについては様々なものが存在するわけでございますから、先程申し上げましたように公文書を補完・補強するものとして本人の了解を得た上でという…。メモ等我々も書く場合があります。様々なスピーチを書いていく上において、基本的な考え方を実際にスピーチライター等に渡す場合がありますから、そういうものは私の手書きのものもありますし、それを添削的にする時のいただいた提案にどういう問題があるか書き込んだ原稿等も私は一部取ってはあります。また人事を行う際にもこう色々と、例えばこれは私というよりもあの、えー…(大きめの笑い声が起こる)そういうことを考えそれにおいて推敲する方もおられるんだろうと、そういうメモをしつつ共有する、いやそれはそれでそれなりの資料的な価値というものはあるのかなあとこう思うところでもあります。

 

西岡:やはり昨年からの公文書改竄も含めまして、公文書管理法を改正して第三者的な監視がきちんと行われる仕組みにすることが今の行政、また立法府も健全な形になるのではないかと思います。そのことを申し上げて質問を終わります。(拍手)

*1:

恐らく「公文書クライシス:首相公文書『保存ルールを』 福田氏、退任後も自身で管理 記録補佐官の創設、提言」(毎日新聞2019年1月20日朝刊p.31)のこと。

ネット記事としては首相公文書「保存ルールを」 福田氏、退任後も自身で管理 - 毎日新聞

*2:

この後も含めて実際誰が笑っているかと言えば、例えば答弁者の後方の人達は大抵笑顔なのでよく映像に映る。茂木大臣?は基本笑顔だが、こういう時によく笑っている。委員長の笑い声が入る時も結構多い。

*3:

この経緯については長谷川貴志「国立公文書館におけるオーラル・ヒストリー事業の実施に向けた一考」北の丸pdfあたりが参考になるかもしれない。

*4:

恐らく公文書管理の適正の確保のための取組について(平成30年7月20日行政文書の管理の在り方等に関する閣僚会議決定)pdfのこと。

*5:

恐らく質問の意図が分からなかったため。「何が聞きたい?」という声が聞こえる(麻生大臣の声?)

*6:

よく聞くと「駄目だ」という発言が聞こえる。何に対してかは断言できない。

*7:

C型肝炎感染の疑いがある患者418人のリストが2007年10月に厚生労働省地下倉庫から発見された事件。厚労省は担当者交代の際に引き継ぎが不十分であったと説明した。しかし、リストには一部イニシャルや実名が記載されておりこの情報を用いて告知すれば肝炎被害を抑えられたのではないかという疑念を生み、またそうしたリストがあるのにも関わらず否定していたため問題になった(「薬害肝炎、攻防3カ月 リスト発見で世論に火、政治闘争に」朝日新聞2008年1月16日p.26。「公文書保存、やっと本腰 管理強化へ議員立法の動き」朝日新聞2008年2月5日朝刊p.5。)

*8:

2007年10月に民主党外務防衛部門会議で発覚した、本来4年の保存期間内だった航泊日誌を誤破棄した事件(「インド洋補給艦の航泊日誌を一部破棄 保存期間中に/防衛省発表」読売新聞2007年10月16日夕刊p.2)。その後、計105件が誤破棄またはその可能性があると判明し問題になった(「航海日誌の誤破棄105件 防衛省、ずさんな文書管理」読売新聞朝刊2007年12月27日朝刊p.4)。

*9:

最終報告 「時を貫く記録としての公文書管理の在り方」~今、国家事業として取り組む~ [PDF]

*10:

恐らく2017年に旧6会派で提出した改正案と2018年に5会派で提出した改正案(通称公文書改ざん防止法案)のこと。もしくは2017年の改正案ではなく4会派で提出した公文書管理適正化推進法案のことかもしれない。

参考:

「公文書管理法改正案」「会計検査院法・予算執行職員等責任法改正案」を衆院に提出 - 国民民主党

公文書管理法改正案 - 国民民主党

「公文書等の管理の適正化の推進に関する法律案」を衆院に提出 - 国民民主党

法律案等審議経過:

法律案等審査経過概要 第197回国会 公文書等の管理に関する法律の一部を改正する法律案(篠原豪君外16名提出、第195回国会衆法第4号)

法律案等審査経過概要 第197回国会 公文書等の管理に関する法律の一部を改正する法律案(後藤祐一君外13名提出、第196回国会衆法第21号)

法律案等審査経過概要 第197回国会 会計検査院法及び予算執行職員等の責任に関する法律の一部を改正する法律案(篠原豪君外13名提出、第196回国会衆法第22号)

【外国人労働者】 安倍首相「日本人と同等以上の賃金」答弁の意義

1. 安倍首相の発言

 昨日の安倍首相の発言がニュースになっていた。

 立憲民主党逢坂誠二氏は外国人材の受け入れを拡大するための法案について、「中身が何も決まっていないスカスカの法案はきょう、あす衆議院を通過させるようなものではない」と批判しました。

 そして、「日本よりも経済力の低い国から来る人も、日本人より低い賃金で働いてもらうことはないという認識か」とただしました。

 これに対し、安倍総理大臣は「その人たちの出身国がどういう経済的状況であろうと所得水準がどうであろうと、日本人と同等以上の賃金でということは変わらないということだ」と述べました。

「出身国がどういう経済的状況であろうと日本人と同等以上の賃金で」安倍首相 | 注目の発言集 | NHK政治マガジン

  読んで字のごとく外国人労働者を日本人より低い賃金で働かせるつもりはなく、「日本人と同等以上の賃金」を要請するという内容である。この発言に対しての反応も種々あるだろう。

 ざっくりまとめれば、「嘘だろう」「実現性が問題」という疑義を挟む意見から「日本人の賃金が下がる」という皮肉な意見、逆に「明言したことは評価する」といったような内容まである。

 私もこれらに賛同する部分もあるのだが、どちらかと言えば安倍首相にとってはこの程度の発言はしても問題ないというのが本音ではないかと思っている。もっと言えば、官僚もこれくらい言っても何も変わらないと考えていて、この発言は前例主義に則っているとさえ思っているのではないかと邪推するところである。

 もちろん当該の文脈を見なければ断定はできないが、こうした私の感覚は現行の法制度を踏まえてのものだ。

 

2.現行の外国人労働者制度

 それでは実際に条文を見ていこう。(以下条文における下線太字は引用者)

 まずは、労働法の基本中の基本である労働基準法から。

労働基準法

第3条

使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない

e-Gov「労働基準法」

 例えば外国人技能実習生も労働法により保護される*1。かつてあった外国人研修生の場合には労働法による保護はなかったが、労働者と認められて保護されるべきという裁判が下ったことがある*2。要するに使用者の指示に基づいて業務を遂行する外国人労働者は基本的に労働基準法の対象だという理解で一応良い。

 つまり労働基準法の時点で外国人労働者は日本人労働者と差別してはいけないというのは明文化されているのである。

 更に、もっと具体的な在留資格について書かれた省令(通称:上陸基準省令)を見てみよう。なお、省令中の「申請人」とは日本に入国したいと申請した外国人のことである。

出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準を定める省令

法別表第1の2の表の経営・管理の項の下欄に掲げる活動

申請人が次のいずれにも該当していること。

……

三 申請人が事業の管理に従事しようとする場合は、事業の経営又は管理について三年以上の経験(大学院において経営又は管理に係る科目を専攻した期間を含む。)を有し、かつ、日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること。

法別表第1の2の表の医療の項の下欄に掲げる活動

一 申請人が医師、歯科医師、薬剤師、保健師助産師、看護師、准看護師、歯科衛生士、診療放射線技師理学療法士作業療法士視能訓練士、臨床工学技士又は義肢装具士としての業務に日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けて従事すること。

……

法別表第1の2の表の研究の項の下欄に掲げる活動

申請人が次のいずれにも該当していること。……

二 日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること。

法別表第一の二の表の教育の項の下欄に掲げる活動

……

二 日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること。

e-Gov「出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令」

 もうこれくらいで良いだろう。ここに出ている「経営・管理」「医療」「研究」「教育」だけでなく、「技術・人文知識・国際業務」「企業内転勤」「介護」「技能」にも同様に「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬」という要件がある(実際にリンク先のe-Govを見てみるとよい)。

 つまり現行でも、「法律・会計」*3や「興行」といった例外もあるが、ほとんどの就労ビザは「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬」が要請されているのである。

 さて、最後に外国人技能実習制度に関する法律(通称:技能実習法)も見ておこう。

第9条

主務大臣は、前条第一項の認定の申請があった場合において、その技能実習計画が次の各号のいずれにも適合するものであると認めるときは、その認定をするものとする。

……

九 技能実習生に対する報酬の額が日本人が従事する場合の報酬の額と同等以上であることその他技能実習生の待遇が主務省令で定める基準に適合していること。

e-Gov法令検索

 以前はいわゆる変更基準省令(出入国管理及び難民認定法第20条の2第2項の基準を定める省令)第1条5号において定められていたことだが、この通り技能実習生も「日本人が従事する場合の報酬の額と同等以上」が払われているということらしい。

 

3.日本人が受ける報酬と同等額以上の報酬

 外国人技能実習制度において数々の労働問題が提起されているのはもはや論を俟たない。それでは「日本人が従事する場合の報酬の額と同等以上」とは一体どんな意味を持つのだろうか。

 例えば、農業に従事する外国人技能実習生の賃金が大企業の日本人社員と比べて低いのは「日本人と同等額以上」に反すると言う人はいないだろう。では、同じ職種では、もしくは同じ業務ではどうだろうか。少なくとも負う責任やパフォーマンスによって賃金は変わるとは言える。それどころか、日本人間でも地域や職場によって賃金格差があるのも確かだ。第一、この国に同一労働同一賃金は根付いていないのだ。

 こう考えると「日本人が受ける報酬と同等額以上の報酬」というのは明確なようで著しく不明瞭な基準だということが分かる。

 

4.結論

 これに対し、安倍総理大臣は「その人たちの出身国がどういう経済的状況であろうと所得水準がどうであろうと、日本人と同等以上の賃金でということは変わらないということだ」と述べました。

「出身国がどういう経済的状況であろうと日本人と同等以上の賃金で」安倍首相 | 注目の発言集 | NHK政治マガジン

 安倍首相の「日本人と同等以上の賃金」は「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬」や「日本人が従事する場合の報酬の額と同等以上」と何ら変わりはあるだろうか?つまるところ「新制度は既存の制度と同じ基準で運用しますよ」と再確認しただけではないか?

 そうであるならばこれはゼロ回答と呼ばれるものであって、全く特筆性のない答弁だと言わざるをえまい。

 そもそも、逢坂議員の危惧が「あまり日本人が集まらない低賃金重労働の職場に外国人を充てる」という部分を含むのであれば、安倍首相の答弁はあまり回答になっていないかもしれない。今までそこまで集まらなかったとはいえ日本人も同様の待遇で募集していたわけだから、外国人も日本人と同等程度に低賃金なだけという話でしかなく「同等以上の賃金」という文言は労働環境の改善に意味を成さない。もちろん結果として労働市場における労働環境の底上げが停滞する恐れもあるわけだが。

 

 結局のところ、既存の制度でも「日本人と同等以上の賃金」が死文化しつつあることを直視して、具体的にどのように外国人*4労働者を保護するのかという点を真摯に話し合うべきである*5――陳腐な結論だがそれに尽きる。

*1:

質問

出入国管理及び難民認定法入管法)が改正され平成22年7月から、1年目の技能実習生への労働基準法など労働基準関係法令の適用が変わったと聞いたのですが、どのような点が変更になったのでしょうか。

回答

入管法の改正により、技能実習生は入国1年目から労働者として、労働基準関係法令の適用を受けます。

出入国管理及び難民認定法(入管法)が改正され平成22年7月から、1年目の技能実習生への労働基準法など労働基準関係法令の適用が変わったと聞いたのですが、どのような点が変更になったのでしょうか。|厚生労働省

*2:(97)外国人実習生をめぐる問題|雇用関係紛争判例集|労働政策研究・研修機構(JILPT)

*3:例えば日本人の弁護士も個人事業主とされ労働基準法埒外とされることが多い。「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬」という要件がないのはそういう事情もあるかもしれない。

*4:日本の労働環境を見るに外国人だけでなく日本人労働者を取り巻く環境についても何かしら改善しなければならないとも思うが…。

*5:などと書いていたらもう法案は衆院で可決されたらしい。これから更に議論が深まることを一応期待しています…。

漢文の素養が無い人の例

 古文・漢文が役立つか否かという話が久しぶりに盛り上がっている*1ので思い出したネタを1つ。

 質問を志願したという石原氏が取り上げたのは憲法の前文。作家でもある石原氏は「諸国民の公正と信義『に』信頼して…」の部分について、正しくは「信義『を』信頼…」だと指摘。「間違った助詞の一字だけでも変えたい。それがアリの一穴となり、自主憲法の制定につながる」と訴えた。
 安倍晋三首相は石原氏の違和感に同意。「一字であっても変えるには憲法改正が伴う。『に』の一字だが、どうか『忍』の一字で…」と述べ、笑いを誘った。*2

 

 高校古典を齧った人間であれば「に」と「を」の使い分けが昔と今とでは必ずしも同じというわけではないという事実に薄々気付いているかと思う。ところが石原慎太郎氏ときたら碌に調べもせずこのようなことを国会で質問し、安倍首相も同調したわけだ。もちろん「~に信頼する」という言い方は漢文訓読体*3としては文法的に間違っていないので、このような指摘は誤りである。

 当然一部からは批判の声が上がったのであった*4

 

 国会でこのような粗雑な議論が行われたのも問題だが、実のところ意外と改憲派にも広まっている議論でもあるようだ*5。よって憲法が翻訳調であるという批判は漢文調ゆえに残った表現に対して向けられている場合も少なくないのではないかというのが私見である。こうした誤った論調は結局のところ憲法関連の議論を混乱させるだけだろう。

 こうなるとやはり政治家や有識者には古文・漢文の教養くらいはあって欲しいと思ってしまうものである。ただし彼らが過つのであればそれをチェックするのは我々の仕事でもある。だからといって高校に古典の授業は必須だと主張するつもりはないが、少なくとも無用の長物というわけではなさそうだ。個人的には二次方程式の解の公式よりは使った回数が多いかな*6

*1:

はてなブックマーク - シャイニング丸の内さんのツイート: "本気で受験勉強して、大学も結構勉強して、大学院でも勉強して、社会人になっても仕事でそれなりに成果出しているという認識を持っていますが古文…

*2:

憲法前文「『に』を『を』に」 変更求める石原氏に首相「どうか『忍』の一字で…」 - 産経ニュース

*3:全て憲法が漢文訓読体というわけではないが明らかに漢文由来の文章がある。例えば「学問の自由は、これを保障する」という文面は漢文文法が由来だと分かりやすいだろう。

*4:例えば

ekesete1のブログ : 「憲法前文の助詞が間違い」説の真偽

憲法「信義に信頼し」は誤りだと作家石原愼太郎氏は言ふ。 誤りではない。 : - 尖閣480年史 - いしゐのぞむブログ 480 years history of Senkakusなど。

抑揚的な論評として

「公正と信義〈に〉信頼して」は誤りか? | 明星大学 人文学部日本文化学科

*5:安倍首相や百田尚樹氏、櫻井よしこなど。前述のekesete1氏のブログ参照。

*6:ちなみに「二次方程式なんて日常で使わない」という趣旨の発言をしたのは曽野綾子氏であった。曽野氏は夫とともに教育審議会に関わっており、またゆとり教育本格導入によって中学校から解の公式が形式上消えることになったためこの発言はボロクソに叩かれることとなる。まあそりゃ批判されるよな、とは。

山東議員による多子出産者表彰発言に関する雑感

自民党山東昭子・元参院副議長が21日の党役員連絡会で、「子供を4人以上産んだ女性を厚生労働省で表彰することを検討してはどうか」と発言した。終了後、山東氏は朝日新聞の取材に「女性活躍社会で仕事をしている人が評価されるようになって、逆に主婦が評価されていないという声もあるので、どうだろうかと発言した」と述べた。申請制にして希望者を表彰する案という。

自民の山東氏「4人以上産んだ女性、厚労省で表彰を」:朝日新聞デジタル

  まとめると、

  1. 「”仕事をしている女性”が評価されるようになったから”主婦”が評価されなくなったのではないか」という声がある
  2.  だから”子供を4人以上産んだ女性”を厚生労働省で表彰しよう!

ということらしい。

 

本当に色々と思うところはあるのだけど、1点だけ言わせていただきたい。

1(目的)→2(手段)って必ずしも論理的に繋がらなくないですか

 

普通、「”主婦”を評価したい」という話から”主婦”に関して真っ先に子供の数が評価対象に上がり、しかも「子供を4人以上産んだ」ことに対して表彰するって流れになるのだろうか。

 

そもそも前提として”仕事をしている女性”と”主婦”*1を対比的に置いているわけだ。しかしながら”仕事をしている女性”でも子供を4人以上産んだら表彰対象になるのではないか。この時点で「”主婦”を評価したい」という目的から外れているように見える。

よもや、当然仕事と出産は全く二者択一を取るものなのだという価値観から前提を立てているからこのような捩れが生まれるのではあるまいかという懸念がよぎる。ただ一方で、キャリアと子供で二者択一を迫られるという現実の反映だとも言えなくもない。それにしたって、その択一を表彰制度において所与のものとしてよいのだろうかとも思う。むしろその択一こそが問題の根本であって政治家が真っ先に是正すべきところなのではないかという疑問が浮かぶ*2

  

元記事では少子化の少の字も出ていないのにブコメ*3少子化対策としての議論だろうと受け入れられているのは、やはり記事内での山東議員の論理に飛躍があるために自然と補完してしまったからなのではないかとさえ思ってしまう。*4。もちろん、「人づくり革命」の文脈から連絡会でも少子化対策として議論になったのだろうという推測自体は自然なものではある。だが記事の限りでは自明だと断言もできまい。

 

とはいえ単に記事に詳細が記載されていないからおかしく見えている*5可能性はあるのだけれども…。実際の連絡会における具体的な文脈を知りたいところです。

 

 

*1:”主婦”の定義も微妙なところである。兼業主婦は”仕事をしている女性”に入りそうなものだが。それとも”仕事をしている女性”とはいわゆるバリバリのキャリアウーマンを想定しているのだろうか。

*2:

実際は”仕事をしている女性”と”主婦”という単純な対比でなく、

キャリアを諦め退職→出産→再就職で共働き

というパターンも結構ありそうだけどどう位置付けられての話だったんだろう。

*3:

はてなブックマーク - 自民の山東氏「4人以上産んだ女性、厚労省で表彰を」:朝日新聞デジタル

*4:まあ斟酌すれば対比されているのは女性の属性ではなく”仕事”と”出産・育児”なのだと言えなくもない。要するに「現状は”仕事”ばかり評価されている状況にあって”出産・育児”は軽んじられている」と言いたいわけだ。正直この認識には違和感があるが、それなら効力はさておき目的手段間にそこまでの齟齬はないとも言えるかもしれない。しかし出産はともかく”仕事”と”育児”なら男性でも同じように対比できそうなものだが。

本論と外れるが、個人的には、この議論が古色蒼然とした価値観に裏打ちされていた可能性を最も恐れている。より正確に言えば、古色蒼然とした価値観によって現状認識の誤りを持った議員がいるのではないかというのを案じるものである。

*5:そもそも子供の数で表彰という方法そのものがどんな文脈でもおかしいだろうし事実上一定の家族像を表彰という形で称揚するのはおかしいだろうという意見もあるだろう。むしろその批判の方が本質的な批判かもしれない。個人的には同感だがここではさておく。